【刺青】
二胡 木村ハルヨ
朗読 mihiromy
緊縛師 怜女王様
踊り子 飯干未奈
それはまだ人々が「愚」という貴い徳を持っていて、世の中が今のように激しく軋み合わない時分であった。
この若い刺青師の心には、人知らぬ快楽と宿題とが潜んでいた。
その女の足は、彼にとっては貴き肉の家宝であった。
娘はそこに隠れたる真の「己」を見出した。
一点の色を注ぎ込むのも、彼にとっては容易な業でなかった。
「苦しかろう。体を蜘蛛が抱きしめているのだから」
「親方、早く私に背の刺青を見せておくれ、お前さんの命を貰った代わりに、私はさぞ美しくなったろうねえ」
「親方、私はもう今までのような臆病な心を、さらりと捨ててしまいました。お前さんは真先に私の肥料になったんだねえ」
女は黙って頷いて肌を脱いた。
折から朝日が刺青の面にさして、女の背は燦爛とした。
撮影 Shigeki Tsuji
谷崎潤一郎 【刺青】より
BLUE ROSE Dance Project / 舞道 飯干未奈
Mina Iiboshi Official
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